日本心理臨床学会 事例研究 発表資料 B

2005年9月6日

事例2:新潟中越における震災被害者へのサポート

大地震にみまわれた新潟中越では、2004年の暮れには、ほとんどの被災者は仮設住宅や避難所にうつり、生活に必要な物資などの供給も受けることができた。しかし、長期にわたるストレスや将来に対する不安や緊張も高く、こころのケアがさらに必要になっていた。

被災によってストレス症状やトラウマ反応がおきやすいことが知られているが、タッピング・タッチによる不安、緊張、ストレス症状などの軽減効果が役立つと思われた。また、短時間でボランティアが学び利用できることや、「こころのケア」として構えることなく提供できる利点も考慮した。

タッピング・タッチによる具体的なサポートとしては、研修をとおしてボランティアにタッピング・タッチとサポートのあり方を学んでもらった。その後、仮設住宅、集会場、避難所などに小グループで訪れ、タッピング・タッチによる心のケアを提供した。

タッピング・タッチは簡単で誰でもできることと、ボランティアがもうすでに信頼関係を持っていた地域も多かったため、違和感なく受け入れられる場合が多かった。また、リラクセーションやトラウマの軽減の効果によって、心身共に楽になった人や、お互いのケアやスキンシップを楽しむ人たちも多かった。

長期にわたるボランティアワークは、疲労度が高く慢性的なストレスによる問題も起こりがちだが、タッピング・タッチによるリラクセーションやお互いのケアの体験は得るものが多かったように思われる。

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災害におけるケアやサポートに関して(タッピング・タッチの利用や有効性について)

  1. 強度の災害がトラウマ体験となり、被害者はトラウマ反応やストレス症状を引き起こすことが少なくない。(タッピング・タッチは、不安、緊張、否定的感情、ストレス症状などの軽減効果があるため、災害時のこころのケアとして有効。)
  2. 災害後(特に”ハネムーン期”)において、被害者はお互いを思いやり援助する衝動が高まる反面、自分の問題の認識やセルフケアをおこたりやすい。(お互いしあうことが基本とするタッピング・タッチによって、ケアが一方通行になりにくい。)
  3. 一般的に、トラウマ反応などに関する知識がなく、苦しくても我慢しようとする人が多い。また、精神病などにまつわるスティグマなどを恐れて、心のケアの専門家から積極的に援助を受けることは稀である。(タッピング・タッチは、「こころのケア」や「治療」として構える必要がなく、気軽にしあえるため、抵抗を感じる人が少ない。災害のサポートには、自立支援を基本としたアウトリーチが欠かせないが、どこでも気軽にできるタッピング・タッチは利用しやすい。)
  4. 災害後は、急性ストレス障害(ASD)、外傷後ストレス障害(PTSD)、短期反応性精神病、パニック障害、恐怖症、心身症、睡眠障害、うつ病、反応性躁病、アルコール依存症などの発症または有病率が高まる。(タッピング・タッチによる早期のケアの提供によって、上記のような精神医学的病態の予防的効果を期待できる。)
  5. 大規模な災害の場合、社会的システムとともにコミュニティ全体が崩壊し、普段の社会的サポートを受けられない場合が多い。(コミュニティの人たちがタッピング・タッチをしあうことによって、交流を促進し、孤独無援感や「孤独死」などの予防につながる。)
  6. 物資や食料などの確保やライフラインの修理などに重きがおかれ、精神的なサポートや治療は受けにくい状態が続きやすい。(カウンセラーや保健師などのケアに加えて、タッピング・タッチは被害者たちが自分たちでできるケアとしての利用が可能。)
  7. ボランティアの活動は、物資の運搬などの単純労働などが多く、心理面でのサポートを提供することが難しい。(ボランティアが、タッピング・タッチと傾聴のスキルを学ぶことによって、こころのケアを含んだサポートを提供しやすくなる。)
  8. 援助者も被災していたり、代理受傷などによって「二次的被害者」である場合が多い。(タッピング・タッチは、援助者の心のケアとストレスマネージメントにも有効。)
  9. 災害の中長期においては、経済的苦境の継続や、被害者間に立ち直り度の格差がひろがるなどによって、身体的反応に加え、さまざまな心理的反応(抑うつ、無力感、怠惰感、自責感、自己卑小感、孤立無援感など)が起こりやすい。(タッピング・タッチには、否定的感情を軽減し、肯定的感情を増加させる効果がみられる。)
  10. インフラの整備に重点がおかれることによって、個人や家族の問題は社会的に忘れ去られ、十分なサポートを得られない場合が多い。(援助者にたよることなく、日常生活におけるセルフケアや相互ケアとしてタッピング・タッチを利用することができる。)
  11. サポートやケアのニーズは時間とともに変化するため、その時期に適切なサポートやケアの提供が大切。(タッピング・タッチは、応急手当や短期のケアとしての利用も中長期の日常的なこころのケアとしての利用も可能。)

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