――2025年5月18日(日)TTスタディフォーラム報告――
今回のTTスタディフォーラムのテーマは「教育現場でのタッピングタッチ(TT)活用について」でした。
当初は参加申し込みが少なく、開催が危ぶまれる状況でしたが、直前の呼びかけに12名のインストラクターが応じてくださり、無事に開催することができました。教育に携わる方、子どもの発育を気にかける方、人を支援する方、参加者ひとりひとりにとって、持って帰るものがある刺激になる時間となったようです。
フォーラムは、恒例の「腕だけ散歩5ステップ」でスタート。日ごろの疲れを癒し、リラックスしたところで、今日の気分を花や空模様になぞらえてシェアする“チェックイン”を行い、ぐっと参加者の距離が縮まったところで、今回のゲストの1人、伊藤美知代さんから話題提供がありました。
伊藤さんは、スクールカウンセラー、巡回相談員、教育相談員として幼児から中学生までの子どもたちと保護者に関わってきました。「見て感じたことをそのままお話します。エビデンスはないのですが……」と前置きされながらも、他の参加者が何度もうなずくような、現場でのリアルな子どもたちの姿を共有してくださいました。
以下は、後日ご本人がまとめてくださった内容です。
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最近気づいたことがあります。発達の変化が大きい時期――小学校3~4年生、中学校2~3年生の頃に、何らかの課題を抱える子どもが多いのですが、その相談を受けていた子どもたちの中に、「えっ?」と思うようなよい良い変化が起こることがあります。
「何かありましたか?」「何かしましたか?」とお母さんに、詳しく尋ねてみると、「子どもの髪の毛を毎晩丁寧に乾かしてあげています」「週1回、こちらから誘って爪を切っています」など、身体的ふれあいがあったことが語られました。
本来、0歳から3歳くらいまで、養育者との身体的接触は子どもたちにとって不可欠なものです。でも何らかの事情で、養育者の調子が悪かったり、子どもさんが障害をもっていてその時期接触を求めなかったり、兄弟に遠慮していた子もいるかもしれません。いろいろな事情があって、身体的接触が持てなかった子が多かったのではないかと思います。
私たちスクールカウンセラーや相談員は子どもたちに言葉で話してもらおうとしますが、問題を抱える子どもたちは、言葉よりふれあいを求めている子が多いのではないでしょうか。安心・安全という包まれるような感覚が、まだ満たされていないような気がしてなりません。
2017年頃、スマホやタブレットの普及がすごいい勢いで伸びました。その年に生まれた子たちが今年8歳になります。今のこの年代以下の子たちを見ていると、“生きている人”(肉体を持った人)と言葉で相互性のある会話をすることがとても少ないのではないかと感じています。さらにコロナ禍に、人との距離をとることが日常となり、マスクで表情も見えにくくなりました。親子間、大人と子ども、子ども同士のふれあいが減ってしまいました。スクリーンを用いることが多くなり、“生きている人”とのやりとりが減ってしまったように思います。
先日、一音さんが支援に行かれた2007年の新潟県中越・柏崎市地震の時のビデオを見てびっくりしました。被災して間もないころの園児たちの様子ですが、前で話す一音さんの方をしっかり見て、静かに集中しているのです。今ではあまり見られない光景でした。特別な状況とはいえ、「やっぱり、スマホやタブレットに頼らず、また距離を取らず、ふれあいのある子育てをされていると、自然と、前に立った人の話を静かに聞くことができるんだ」と衝撃を受けました。
私たちは皮膚一枚で自分自身と外界が隔てられています。その皮膚の部分を、人に触れられることで、自分を体感することができると思います。つまり自分をしっかりと感じることができると思うのです。発達や、自我を確立していくためには、人との触れあいなしにはできないのではないでしょうか。タッピングタッチの素晴らしさは、ふれ合う関係性の中で「等身大の自分を感じさせてくれる」「縮こまってしまっているときには、等身大に戻してもらえる」ところだと私は思います。自分の身体的感覚があってこそ、相手の痛みもわかるのだと思います。
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伊藤さんの話の後、色々なコメントがありました。以下は抜粋です。
・大学院生に傾聴を教えているが、「ふれる」ことは禁忌です。でも、なんとかふれることの大切さを教えたい。
・発達の課題のある大人の就労支援をしています。生身の人間相手のSST(ソーシャルスキルトレーニング)が困難な中、VRで状況別に人との関わりを学ぶ教材が出てきているが、やはり核になる、感覚に働きかける支援をしたい。
・コロナ禍を経て、発達障がいの相談が増えたが愛着の問題が背景にあると感じる。特に身体的ふれあいがない、情報に振り回され、トライ&エラーがない子育てが多い。「発達支援」ではなく、その前に「子育て支援」が必要だ。語りかける、関わる子育てが必要。AIの子育ては、自閉症の子育てに似ている:正解を子どもに教えようとする。原点に返った子育て:タッピングタッチが伝えることを大事にしたい。
・中学校の保健室には、言葉にできない子、自分で思いを処理できない子が多く来る。関わりにくいため、こぼれていく感覚がある。自分の中の気持ちや感覚を、大人との関わりが少ないために、自分の中で育てられていない。関わりたいけど、関われない。「あー遠ざかっていっちゃう・・・」と思うことも。タッピングタッチでなんとか関わっているけれど。。。
・義務教育の場であれば、自分をいい方向に育ててくれようとする大人が沢山いる場所なので、チームで学校でこぼれていきそうな子どもたちを支えられる場だと思う。課題を解決しようとするばかりでなく、支援がいい方向にいく俯瞰した視野を忘れず、タッピングタッチの基本姿勢を伝えられたらと思う。
などなど、伊藤さんの話しに刺激を受けて、教育現場の色々とやはり大事にしたい「関わること」「ふれあうこと」がコメントされました。
そして休憩をはさんで、角田圭子さんからSC(スクールカウンセラー)をしている小学校での実践報告がありました。この報告は、9月27日(土)に『学校で使えるTTプログラムを考える会』が、日本心理臨床学会の自主シンポジウムで発表する内容の一部になります。
小学4年生向けで、45分の授業でタッピングタッチの基本形を実際に児童にやってもらう内容は、とてもチャレンジフルだったと思いますが、うまくされていました。4クラスで実践し、前後の変化を統計処理し、児童の感想をAIで要約。タッピングタッチが大切にしている特徴や効果が、しっかりと出ていることが分かりました。
報告後、一音さんからパワーポイントの作り方や改善提案など少しフィードバックがありました。
また参加のお二人からは異口同音に、学校の授業でタッピングタッチを導入するハードルや壁が沢山あると思うので、実践するにはそのあたりをもう少し聞きたいのと、授業した後の継続活用についても大事なので気になるとのことでした。これらのコメントは自主シンポジウムでも出そうな大事なコメントや質問となるので、『学校で使えるTTプログラムを考える会』では、全体の流れの中でカバーされるように検討していく予定です。『考える会』では、過去3年間に学校現場にあるハードルをいかにクリアするかについて意見交換し、方法をいろいろと考えてきたので、その難しさを他のインストラクターと共有できたことはとても良かったと思います。
今回の発表が最終の形ではなく、参考モデルとなって、子どもたちにタッピングタッチを伝えていく方法を今後も検討していきます。興味のある方はぜひ、第4木曜日の夜8時から9時半までの集まりに参加してもらえたらと思います。
ということで、非常に中身の詰まった有意義な2時間半でした。
中川祥子(SSW、協会事務局長)
『学校で使えるTTプログラムを考える会』
毎月第4木曜日 20:00〜21:30開催 対象:認定インストラクター
6月のお申込みはこちらー>https://ttprogramatschool202506.peatix.com